年末なので今年リリースされた作品の中から特に印象深いものを振り返るコーナー。
ここに挙げた他にも素晴らしい作品が多くあることは承知しているが、すべて列挙するわけにもいかない。ご理解願いたい。
特に順位を設けているわけではなく、どこからでも随意に聴き始めてよいし、どんな順番でも構わない。一通りチェックしていただければ幸いというもの。 読むのはかったるいという向きもあるだろうから、Apple Music、Spotify、そして网易云音乐にプレイリストを用意した。各人お好みのプラットフォームで聴くといいだろう。曲順が異なるのは、揃える作業を億劫がったためだ。気にしないでほしい。
各サービスそれぞれに配信されていない楽曲があったりするものの、できる限りのことはした。権利者に要望を出せばもしかすると対応してくれるかも知れない。


返校日 Riot in School - //亵渎朋克摇滚 //Punk Rock Blasphemy(成都)

これはアルバムオブジイヤー。デビュー当初はグランジや1990年代オルタナティブ・ロックの印象が強いバンドだったが、ポストハードコア/エモということで落ち着いているようだ。このセカンドアルバムでは非ロック的なスタイルがふんだんに用いられ、多様化する音楽潮流を体現するような作品になっている。ラップしているのには驚いた。横溢するエネルギーは前作にはあまり見られなかったところで、まあきっと鬱憤が溜まっていたんだろう。

白百 Endless White - 时间之间 (西安)

西安のインディー/オルタナティヴ4人組が、結成10周年の節目にリリースした最新EP。彼らのフルアルバムは2023年のベストアルバムオブザイヤーでもある。今作もその延長線上に位置づけられるが、シンセ成分が増えたりしてるのは容易に気のつくところ。そう言えばボーカルの一拐は、同じ西安のポストパンク 跳山羊のメンバーとして活動するようになった。創作に何らかの影響があったりするのかも知れない。

紅髮少年殺人事件 - Brutal Girl Delusion (広州)

Number Girl のカバーバンドから発展した若手バンド。日本のバンドからの深刻な影響は模倣というより執念に近いものがあり、向井秀徳の語彙を借用しつつ、現代中国の地方都市に生きる若者の無常感を描いている。そこらへんについては、ボーカルの康俊にインタビューした記事があるのでそちらを参考にしてもらいたい。激しいライブパフォーマンスから、ファンの間ではエモ/ポストハードコアとみなされることが多いようだ。そう言えば、ベーシストの404は銀杏BOYZの狂信者でもあるらしい。現在ギタリストを募集したりしていて、今後どうなるかは不透明な状況。

Chestnut Bakery 栗子蛋糕 - Tomorrow(珠海)

2011年に珠海で結成されたシューゲイズ/ドリームポップ。メンバーはヨーロッパ在住らしく、恒常的な活動ではないものの、シューゲイズファンダムの間ではもっとも国際的な人気を博す中国バンドのひとつ。

吴雪颖 Ecke Wu - 醒不来的梦(德国)

Forsaken Autumn での活動で知られ、ソロシンガーとしても活動する上海ドリームポップの第一人者。現在は自宅から私的な色彩を帯びた作品をぽつりぽつりと発信している。「夢」をテーマにした今作は、アンビエントなフォークトロニカ風のベッドルームポップ。夏にリリースされたシングル『Tiny Cosmos』も出色だった。

Love Letter Lost 情书失窃 - 秘密文字 Secret Words(広州)

元Pocari Sweet のSiyuによる新バンド。ファーストEPも今年の3月にリリースされた。ノイズ成分控えめなので、健康に気を遣っている人にも勧めやすい。

奶盖儿 Milk Guard - Defrost(南京)

台湾出身のメンバーがもたらしたという閩南語のフレイバーが独特のタッチを感じさせる南京の新世代シューゲイズ。前作と比べてノイズ成分は控えめで、インディーフォークとでも呼びたいスタイルへと変化の兆しが見られ、Slowdiveのアコースティックカバーもその印象を強化する。

The Cheers Cheers & Chestnut Bakery - Sleep Well, Talk to You Soon

10年代シューゲイズシーンで活躍していた2つのバンドによる合作シングル。王客观のソロプロジェクトとして始まった The Cheers Cheers は、しばらく前からバンド編成になっている。

Rubur & Asthenia(上海&北京)

ゴシック&ヘヴィな上海シューゲイズによる3年ぶりとなる復帰作は、北京のポストブラックメタルアーティストとの合作シングル。結成は2014年とベテランと言っていい。もともとゴスっぽい志向はあったが、さらにヘヴィというか暗い。

靴腿 The Bootlegs - 幻灯片(青島)

ベッドルーム型ローファイ・サーフロック界のRamones。メロディーとリフが天才なのである。

属梨 Rats and Pears - 羞耻之井 The Well of Shame (西安)

フェミニズムを根幹に据えた、力強い意志と怒りを湛えた荒々しいサウンドで女性の声を代弁するデビューアルバム。ポストパンク本来のスタイルを引き継いだスリーピースバンドによる兵马司 Maybe Marsからのリリース。

閃閃 Hex in Sparkle - 少女成长诗 The Ballads of Girlhoods (成都)

假高潮 Fake Orgasmの名で活動していたエレクトロ3人組の初アルバム。タイトルのとおり、ひとりの少女の成長を描いたコンセプトアルバム。パンクのバックグラウンドが垣間見えるというものの、ダンス音楽に大きく振り切ったriot grrrlの後裔である。

v是兔子Wishtoday - 疼痛部 (鄭州)

このところエモ界隈でひときわ注目を集める中国ロックの最前線。プログレッシブロック/ポストパンクの文脈で聴くことができる。「wishtoday」とは河南方言に由来するネットスラングで、WTFとかOMGみたいな意味らしい。

吉米的猜想 Jimmy’s Guess - (焦作)

地元のスケボー仲間が集まって始めたというローファイ/ガレージ/サーフポップ。V是兔子のボーカルがギターを弾いてることは最近知った。

鳕鱼汉堡 Cod Burger - Cod Burger II(鄭州)

Sonic Youth を経由したガレージパンクといった趣のオルタナティブロックバンド。「II」とあるのでセカンドアルバムなんだろう。哥伦比亚可乐とメンバーを共有していることは最近知った。

酸的房间 Acid Room - 盘旋的鸟被闪电击中 (蘇州)

2022年に結成されたノイズロック新勢力。次世代のCarsick Cars とみなすに充分な素質を備えているように思えるし、現代版の哪吒といった趣があり、ライブでは七八点をカバーしてたりもする。サーフロックの技法を織り込んでおり、エモシーンからの支持も厚い。全部乗せの様相を呈している。ずっとシングル『揺曳山川』しか聴けなかったが、ようやくのEPリリースとなった。『fxxkmeimfamous』は『揺曳山川』のライブ録音版

憂鬱的亞熱帶 Yaredai Sad Sad - 憂鬱的亞熱帶 (広州)

広州で注目されるエモ/シューゲイズ。初EPは琪琪音像 Qiii Snacks Records からリリースされた。諸事情(進学とか就職とかかな)により「もうエモなんてやらない」と投稿し活動を停止した。そのうち再開するつもりではあるらしい。と書いてたら年末にライブをやるそうだ。

烈性水母 Fiery Medusa - 向下的眼睛湿润 Eyes Looking Down (上海)

上海の学生によるポストパンク新星。P.K.14のTシャツを着ていたり、No New York を思わせるところがあったりと方向性は明確である。今後も活動を継続してもらいたい。

梦游动物园 Sleepwalkin’ Zoo - Eclosion(広州)

珠海のバンドだったと思ったけど、だいたい広州と表記されている。引っ越したか記憶違いかと思われる。シューゲイズ/ノイズポップなイメージが強いバンドだが、今作ではトリップホップやエレクトロニックなダンスポップを取り入れ、現行のUKインディーに近似したダークなオルタナティブロックという方向に進んでいる。

浪味仙贝 Lonely Cookies - Ouch! (杭州)

武漢から杭州に活動の場を移したインディーロックバンド。老若男女誰からも愛されるモダンで楽しいパワーポップアルバム。リーダーでボーカル&ギターを務めるZoo酱は日本のサブカルチャーにも造詣が深く、この最新アルバムでは1990年代の日本ポップ音楽様式をふんだんに取り入れている。武漢で撮影されたMVでは、現代中国のナイトライフを追体験できる。

肆意方式 Silly Function - 就是一种的感觉 (武漢)

キャッチーなメロディーと疾走感溢れる等身大のギターロックといった感じのエモロック。今回のEPでは速度を抑え、アンニュイな雰囲気を醸し出している。主唱の王奕が浪味仙贝のMVに「社畜」役で出演していることから、仕事に忙殺されているということが作用しているものと思われる。

Whetherday - Whetherday (On a Very Sudden Day)(杭州)

詳しいことはわかっていないものの、見たところエモの仲間に含まれることが多いようだ。全体的にはカリフォルニア感の漂う実験精神の旺盛なガレージパンクといった風情。Bandcampでは「psychedelic pop」、「lofi」などのタグがつけられている。The Brian Jonestown Massacre とか好きなんじゃないかな。

恒温人员 Thermostat - Daria(北京)

人のプライベートを覗き見しているような罪悪感を覚えさせるベッドルームプロジェクトの第2EP。本人は「アンビエントとドリームポップとローファイの中間にある何か」と説明している。カバーの子犬は、蚤の市で購入したぬいぐるみらしい。詳しい話はこの前インタビューしたのでそちらを。

Feed - First EP (廈門)

ある人から「南方にもポストパンクバンドはいるよ!」と教えてもらった廈門のガレージ風なポストパンク。北京風の伝統的なポストパンクからの影響もあるのだだろうが、むしろ1960年代サイケデリアの特徴を受け継いでいるところが興味深い。柏林护士に連なる系統と考えるとわかりやすいかも知れない。

KyoYoko - Mirror Chamber (北京)

初期のThe Rapture を彷彿とさせるファンクでジャジーなディスコパンク。都会的でおしゃれなポストパンクである。昨年の日本でのライブも好評だったようだし、SXSW(オーストラリア)でも支持を集めたようだ。花墙FancyWallのメンバーによるサイドプロジェクトなのかな。

Naja Naja - Sheep Out of the Box (北京)

北京ポストパンクの伝統を引き継ぐ2人組。ロシア東欧のダークウェーブ風なところもあり、クリシェからの脱却を図っている様子が見受けられる。

默象 Silent Elephant - 沉默的大象(福州)

ポストロック風なところも見受けられるが、南方的なインディーポップ/ノイズロックを踏襲する。ギターの質感やベースラインが『Ceremony』を志向しているね。

黑甜一枕 Samecup - 幻视(杭州)

シンセサイザーを多用するダンサブルなコールドウェーブだった気がするのだが、今年発表された曲はいずれもサイケデリックなインディーポップ。一番近いのはPulp ではないかと疑っている。

录耳 Lur: - 这是夜,火焰或黎明(西安)

ロシア及び東欧風のダークウェーブコンビとしてキャリアをスタートさせた彼らだが、今年に入って摩登天空 Modern Skyと契約し、音楽性もより軽妙なダンスチューンへと変化した。暗いは暗い。

南方酸性咪咪 South Acid Mimi - Lovers of Highway(昆明)

雲南省昆明のインディーシーンで存在感を発揮するエレクトロなシンセポップ3人組。唐突に発表されたシングルは、どことなくリンチ感のあるロードムービーのサウンドトラックのよう。

荷尔蒙小姐 The Hormones - 末日的梦(成都)

パンクバンドのような名前だが、ウェルプロデュースドなグランジ系オルタナティブロック。四川音乐学院の出身で、秘密行动 Stolen や海朋森 Hipersonとの関わりも深い。

Run Run Run - 采茶(北京)

サイケデリックロック/クラウトロックで鳴らすバンドだったが、ここ数年は民謡(民歌)をベースにしたパーティーミュージックを主としている。貴州黔西南に伝わる掛け合い歌(山歌)をモチーフにしたシングル。

贊诗 - 神衣尝百草・卷一(鄭州)

なぜかネットでバズり、一躍人気バンドの仲間入りを果たした河南の青年たち。クラシカルな中国ロックのバイブスとモダンなプログレッシヴ感が同居し、ボーカルは「河南の窦唯」と渾名されているらしい。

沉默橙 Wordless Orange - 装高手(武漢)

Super Furry Animals みたいだということしかわからない。ソウルジャズなのかも知れない。一時期 Instagramで頻繁に広告が流れてきた。

河边走 The River, Orchestration, Walkman! - 无尽的夏天 Eternal Summer(広州)

前衛や実験といったパフォーマンスに馴染みのない人でも楽しく聴ける即興演奏集団。ユーモラスな活動で知られ、はじめてのフリージャズにもうってつけ。中心人物と目されるサックスの小津は、鼠鼠鼠とよく一緒に活動している様子が目撃される。

景德镇文艺复兴 - 云城(景徳鎮)

演劇風な演出を特徴とするバンド、あるいは、音楽を演奏する演劇集団ななかも知れない。その実態はいまだ不明ながら、伝統音楽を取り入れたアートロックといった感じ。今年相次いで発表されたシリーズ作品『云城』では、電子音を取り入れるなどスタイルに変化が見られる。もともとそういう作風なのかも知れない。

Apple Music

本能实业 Instinkto Industrio - 烈日独行(昆明)

世界中の様々なダンスミュージックを駆使し、ライブハウスを舞踏会に変えてしまう雲南の不思議楽団。エイプリルフールに突如発表された第2アルバムはロック圏でも好評を博している。今作のリリース後、笛担当のAya氏にインタビューしたので、バンドについての詳しい話はそちらを参考にしてもらいたい。

小南瓜 Pumpkins - 小城青年 (新鄉)

結構なキャリアを持つ河南のパンク/ガレージ。疯医と並んで河南ロックシーンの兄貴格と目される。鄭州の若手バンドに Thee Michelle Gun Elephant の影がちらつくのは、ひとえにこのバンドが暗躍しているせいではないかと疑っている。パンク一辺倒だったように思うが、今回はがらりと趣を変えてサイケデリアな作風となっている。「小城」とは彼らの生まれ育った新鄉を指し、現在におけるキャリアの集大成的な作品と言える。

电视派对 TV Party - South, Somewhere, Somehow (蘭州)

ノーウェーブのエッジと、ハードコアのソウルを持ち、多くの人に愛される種類の音楽。矿泉血の操商业化Fuck Commercializationとの共同リリースで、要するにDIYということ。高校生ということで今後に期待していたのだが、先日解散を表明した。なんでやねん。

有利社群 The Beneficial Society - I Can’t (杭州)

高校生らによるポストハードコア/エモ。プログレッシヴロック/アートロックとして聴いているが、比較対象としては BC,NRやBlack Midi、テレビ大陸音頭などが思いつく。Soccerの招聘で日本ツアーをしたりもしたが、年内での解散を表明している。

小洋圖文 Yoko the Printer (広州)

どこか Flipper’s Guitar を思わせる、こまっしゃくれた広東インディーポップといった風情。近所のお兄さんお姉さんがやってるバンドって風情が広州って感じなのよね。

想想 XiangXiang & I’m Fine! Thank You! And You? - It’s Your Tune (広州)

yourboyfriendsucks 2.0的な扱いを受けていた想想と、Jo’s Moving Day を前身とするIFTYAYが互いに曲を提供し合う両A面スプリットシングル。それぞれのオリジナルデモも収録され、その違いに目を向けるのも楽しいね。

無高潮 Nein Or Gas Mus - Ink (広州)

広州エモ/マスロックの屋台骨として、仕事の合間を縫って活動するワーカホリックバンド。5年ぶりの音源リリースとなるシングルは、社会に揉まれる大人の不安定なエモーションを安定感のある演奏で巧みに表現する。マスロックはちょっと苦手、という人にもおすすめしたい。
Apple Music

右侧合流 Right Together - 春迟到 Spring Comes Late(恵州)

本格マスロックにKawaiiポップな衣装を纏わせる広東バンド。日本バンドの広州公演で前座としてよく名前を見かける。音楽的にはアイドル系あるいはK-Popかも知れないし、花澤系なのかも知れない。しばらく前に英文名をYouCeHeLiu から改名した。

Fayzz - Patch(成都)

ポストロックについては明るくないため、これといった話はできないのだが、Envy やToeの後継者ではないかな。

浅水 Shallow End - Jiming Temple(北京)

ポストロックについては明るくないため、風格を云々するのは難しいのだが、強いて言えばこのシングルは『続・夕陽のガンマン』っぽい。

失忆机器 Lost Memory Machine - Anima(北京)

中国人とドイツ人によるデュオ。ローファイトリップホップと理解しているが、素直にエレクトロニカと呼ぶべきなのかな。 ドリームポップが根にあるらしい。歌詞の一部に日本語が使われててびっくりする。

Taiga - Nomadelic (成都)

成都を活動拠点と定め、遊牧騎馬民族の精神をダンス音楽のうちに復興させるウイグル、モンゴルの2人組。電子音楽のことはよくわからないが、非常に印象的。見た目もいかつい。

法兹 FAZI - 迷幻 F is not Free (Long Arm Remix) (西安)

スタイルの変化が著しい西安の重型ポストパンク。『东方101』のために再録音した曲を、Long Arm という人がリミックスしたんだと思う。「not」とも書いてあるので違うかも知れない。「迷幻」というのは「サイケデリック」の訳語として用いられる言葉だけど、どちらかと言えばインダストリアルな仕上がりの曲。

疯医 The Fallacy - 疯医@CCLIVE (新郷)

長らく地元新鄉で活動を続け、今や中国どころかアジアで一番かっこいいバンドとトマーさんに呼ばれる疯医。CCLIVEは、彼らの地元である新鄉に創設されたライブスタジオで、KEXPを範にとり中国各地の優れたインディーバンドのスタジオライブを配信している。疯医の出演とライブ音源のリリースは、まだ十分な注目を集めていないインディーズバンドを支援する取り組みの一環と見ることができる。CCLIVEはYouTubeで世界中に配信している。みんなチャンネル登録よろしくね。


今年1年の中国インディーシーンの総括でもしようかと思ったが、まあちょっと荷が重いので止しておきましょう。 (おわり)

→ Chinese Postpunk Anthology